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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)649号 判決 1957年12月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉岡秀四郎の上告理由第一点について。

所論三摘示の準備書面記載の事実は弁論において陳述されていないだけでなく、その記載事実は単に本件賃貸借期間の長期であることを推認させるべき間接事実にすぎず独立の抗弁事実ではないから、原審がこれを判決中に掲げずこれに対する判断を示さなかつたからとて民訴一九一条違反の問題を生じないし、その余の論旨は畢竟原審が適法にした事実の認定を非難するものであつて、違憲の論旨は単に名を藉りるものにすぎないから、論旨はすべて理由がない。

同第二、三点について。

賃貸借契約締結の際に授受されるいわゆる権利金の性質は必ずしも一概にこれを断定し難いけれども、賃借権に基く場所的利益享受の対価たる性質を有する場合のあることは所論のとおりである。しかしそれだからといつて権利金の授受により賃貸借の更新を拒絶しえなくなるということはできない。権利金の授受により更新拒絶権を失うかどうかは、結局当事者の意思解釈により決せらるべきものであつて、鑑定事項に属する問題ではない。所論はすべて採用に値しない。

同第四点について。

建物賃貸借の更新拒絶について必要とされる正当事由もその解約申入について必要とされる正当事由と同じく、賃貸人および賃借人双方の利害得失を比較考量して決すべきことは所論のとおりである。けだし、借家法一条ノ二は特にこれを区別して規定していないだけでなく、これを区別して理解すべき実質上の理由がないからである。それ故に、原判決の引用した一審判決が、本件において更新拒絶の正当事由を判断するにあたり、当事者双方の利害関係を主眼としてなさるべきではないとしたことは、その表現において妥当を欠くものといわなければならない。しかし原判決の引用する一審判決は、本件建物は元来校舎用建物であつて、被上告人の経営にかかる学園設備の整備上本件建物の使用を絶対に必要とし、そのために賃貸期間を特に五年と定めたものであるだけでなく、被上告人は折に触れ上告人に対し被上告人に本件建物使用の必要を生じたことを通告し、期間満了の後は直ちに本件建物を明け渡すべき旨申し入れ、上告人に対しその明渡について万全の準備ができるように仕向けたと判示しているのであつて、その趣旨において被上告人、上告人双方の利害関係を考慮した上被上告人の本件賃貸借の更新拒絶について正当事由あることを認めたものと解するに十分である。そして学校法人がその経営する学園設備の整備上本来校舎として使用していた建物の回収を図る必要がある以上、その必要の発生を予測し期間を定めて賃借した賃借人において自己に損害の生ずることを理由として更新拒絶の効力を否定しえないものと解するを相当とするだけでなく、賃貸人においてあらかじめ賃借人に対し屡々自己使用の必要の発生を通告し、期間満了までに建物明渡についての準備を可能ならしめたような場合は、賃借人としても誠実に移転先を物色して期間満了とともにその明渡を履行すべく、損害発生の著大なことを理由にしてその明渡を拒むことをえないと認むべきであるから、原判決の判断には違法の廉がなく、論旨は結局採用し難い。

違憲の論旨は単に独自の見解を基礎としたものであつて、適法な違憲の主張と認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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